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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年02月10日

新たな物語づくりへ

ヒット商品応援団日記No240(毎週2回更新)  2008.2.10.

2008年の元旦にサミエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」というタイトルを借りて、やってきてくれるかどうか分からない不確かな何か、救世主あるいは神と呼んでもかまわないが、そのゴドー(Godot)という「不確かなもの」を待った十数年であった、と私は書いた。また、その後神や精霊は形あるものに降りてくるのではなく、こころの中に降りてくるのが日本人の心性世界でもあるとも書いた。鬱屈した時代、ますます心理市場化していく時代にあって、「不確かさ」に向き合うこころと消費を重ね合わせ、少し異なる視点で考えてみたい。

「不確かな何か」を消費という面から見ていくと、それは市場が心理化される中での「期待値」ということになる。ブランドへの期待とか、何かチョット他とは違う何かがあるとか、そうした一種曖昧なものへの価値ということとなる。消費推移を20年ほど振り返ってみると、使用価値や機能価値といった形のわかるモノ価値の次の段階へと消費が進化してきた。こうした消費を促進してきたのが、記号論を背景とした物語マーケティングとかストーリー・マーケティングと呼ばれてきた手法であった。いわゆる生活者は「物を買うのではなく、物語を買っているのだ」と。1980年代から、1990年代にかけて様々なところで使われてきたが、最早そうした物語は解体している。

ちょうど1990年代末から2000年にかけて、マスマーケティンの終焉と共に、口コミマーケティングが着目された。この「口コミ」という手法は、物語消費という視点から見ていくと、物語の作り手がメーカー・販売する側から、買い手・消費する側へと移行したということである。つまり、物語の想像・創造が消費者へと移ったということだ。「うわさの法則」でも書いたが、「不確かさ」あるいは「曖昧さ」といった不完全な物語を補う欲求が、想像力や創造力を促し、「私の物語化」へと進んでいったのが口コミマーケティングであった。これが数年前の「マイブーム」の本質であった。更にいうと、「私だけがよければ」という悪しき私生活主義も産み出した。

この前、「不安物語」というタイトルで、中国製冷凍餃子事件について書いたが、結論からいうと「こころには、神ならぬ不安という妖怪が降りてきている」ということであった。妖怪は食ばかりか、不透明なままの年金問題や是正されぬ格差問題、未解決のままの凶悪犯罪、・・・・・昨年の流行語大賞の「どげんかせんといかん」も「KY(空気がよめない)」もこうした心理を反映したものだ。「踊り場」にいると私は表現してきたが、降りてくるのを神とするのか妖怪のままにしておくのか、決めるのは個人である。実は、次の物語を創るのは私たち個人ということだ。

既にそうした芽は点ではあるが出てきている。商品を作る側では、一年中365日「旬」が作れるが、しかしコストのかかる「温室栽培」の野菜ではなく、自然にまかせ生命力そのものである野菜を使ったレストランや生産者が増えてきている。旬はその時期でしか食し得ないから旬であったことを生活実感する本来の感性を取り戻すということだ。その時、地産地消とか身土不二、あるいはマクロビオテクスなどと理屈をいわないことだ。豊かさ実感はそうした方向、物語へと進んでいると思う。

さて、物語の作り手となった私たちはどんなシナリオを書き始めているだろうか。中国製冷凍餃子事件に関していうと、ファミレス大手のすかいらーくグループは中国製メニューは全てメニューから外すと発表した。一種の「チャイナフリー」というプロモーションであり、生活者の物語づくりの方向を見定めることでもある。私の考えはこうだ。戦後間もない頃、食の第一は栄養をとることであった。しかし、そうしたサプリメント的な食から、食の本質は旬=生命力の素であり、千年以上続けてきた生活文化の中で育まれてきた文化そのものであり、更にいうとそうした食を学び・継承していくものだという原点に立ち戻る。そうした原点回帰・本質へと向かう物語づくりだ。そして、志しある個人が物語づくりへと集まり、コミュニティ再生、街や村起こしへと向かうであろう。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:44Comments(0)新市場創造