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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年03月07日

リニューアルを読む 

ヒット商品応援団日記No146(毎週2回更新)  2007.3.7.

流通のあり方を見ていくと時代のライフスタイルが見えてくる。江戸時代の流通は行商や屋台が中心で新しいものを提案するライフスタイル革新者であった。ところで、日本の流通のオーバーストア情況の象徴として言われて来た百貨店も全体として低迷傾向は続いている。(http://www.depart.or.jp/)最近では大丸と松坂屋との合併ニュースが話題になったが、これからもスクラップ&ビルトは続いて行く。格差社会というと都市と地方というエリア間格差がテーマとなっているが、このブログでも何回となく言って来たが、東京という都市圏内部にも格差はあり、ジニ計数が23区で行われたならば都市と地方の格差どころではないもっと大きな格差になっていると思う。そうした意味で今都市の流通にとっての最大課題は
「誰を顧客とするのか」
「その顧客はどんな性格の市場になっていて」
「その市場で経営するには何が必要か」
を見極めることにある。そうした目をもって、渋谷西武百貨店(https://www2.seibu.co.jp/wsc-customer-app/page/020/dynamic/top/Top)のリニューアルを見て来た。知らない方もいると思うので簡単にリニューアルの概要を言うとA館を中心にリニューアルし、B館は屋上にペットショップを入れた程度で大きな変化はない。そのA館についてだが、一番のポイントは地下1階の食品フロアと地下2階及び8階のレストランフロアである。つまり、「食」「日常」がリニューアルの編集テーマとなっており、当然フロア面積も増えている。しかも、このテーマをかなりこなれた価格で実施していることだ。ランチタイムのレストランでは980円といったリーズナブルなプライスとなっている。また、和と洋がフュージョン(融合)した冷たい和菓子「モチクリーム」やマクロビオテクスのお惣菜などかなりトレンドを意識したテナント編集となっている。あのチョコレートのゴディバもカジュアルタイプの店が出店している。以前の渋谷西武百貨店の中心顧客設定は50歳代以上の大人の百貨店としていたが、かなり年齢層を若くしてきている。また、食品フロアの「グルメマルシェ」にある「煮売屋宮下」や「酒とおいしいものブティック」などは、前回私が指摘した地方の誰も知らない「普通」の店にあたる。その内容は岡山倉敷にある造り酒屋「森田酒造」の食のセレクトショップ「平翠軒」がそれである。「煮売屋宮下」は隠れ家という言葉を流行らせた宮下大輔氏がプロデュースした店で、江戸時代の飯屋(焼き魚、煮魚)にアイディアを置いた店である。

渋谷という街は面白い街であると同時に商業にとって難しい街でもある。1980年代前半、ファッションにおけるDCブランドブーム以降丸井からパルコへの公園通りは若者のストリートとなる。「若者の街渋谷」というイメージとなるが、百貨店顧客を「大人」としてポジションし直す動きは東急百貨店本店・文化村、あるいは西武百貨店の大人百貨店へのリニューアルとつながり「今」に至る。こうした「大人の街化」に呼応するかのように、渋谷109を高感度ファッション(大学生&OL)のビルにしようとしたが結果は周知の通り「ティーンを中心にした若者の聖地」になる。また、渋谷駅につながるマークシティを「大人の専門店街」にしようと意図したが、ファッション分野では失敗し、ワールドを中心に立て直ししたのだが、成功したのは飲食店街だけとなる。
渋谷は面白い街といったのはここ二十数年間ことごとく狙いが外れ、逆に市場・顧客のもつエネルギーに任せた商業施設は結果成功している。多くの商業施設が低迷する中で、伸びている商業施設は顧客の求めるものを素直に受け入れ変化して来た渋谷109、あるいは新宿ルミネである。

顧客が求める「普通」とは何かをどう編集していくのかという課題であるが、既に発表されている東京ミッドタウンや新丸ビルにも、ほとんど知られていない東京郊外の中華料理店や知名度はあるが新しい業態などの出店が予定されている。これは推定の域を出ないが、海外の著名な構えた店の名前はなく、ごく普通の日常がテーマになっている。価格もそれなりに値こなれしたものになると思う。つまり、「あっと驚く」ようなコンセプトではなく、従来表舞台には現れなかった地方、郊外、裏通り、隠れ家的名店が出店してくる。普通、日常をテーマとして成功させるには「回数化」がはかれるメニュー開発力が不可欠となる。開発が途絶えるその時、ともすると「トレンド」はまさに一過性のものとなり、顧客は離れて行く。毎日食べても飽きない、毎日着ていたいお気に入り、その都度小さな変化にこころ動かされまたと思いたくなる、ある意味癖になるメニューのことである。今回の渋谷西武百貨店のリニューアルについて結果が出るにはまだ時間を要する。しかし、私が懸念するのは「トレンド」の扱い方と、もっと「普通」「日常」といったテーマ集積をすべきではないかといった2点である。リニューアルをしなかったB館は従来の百貨店パターンであるティファニーなどのスーパーブランドが1階フロアを占め、他のフロアもブランドファッションで埋められている。もういいかげんにファッションから離れ、発想転換しなければならないと思う。生活者が求める「普通」「日常」集積が中途半端になっていると感じた。「普通」「日常」とは何か、この研究がもっとなされなければならない。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:41Comments(0)新市場創造