恐怖から自制へ 

ヒット商品応援団

2020年05月10日 13:02

ヒット商品応援団日記No765(毎週更新) 2020.5.10.


新型コロナウイルスの衝撃がピークを迎えたのは志村けんさんが亡くなった時であった。後に専門家会議が発表した諸データの中に期しくも感染数のピークであったことがわかった。時代の空気は恐怖によって張り詰めたピリピリとしたものであった。緊急事態宣言はその後に発令されたが、外出と休業自粛の中で新型コロナウイルスに向き合うことによってその正体は徐々にわかるようになってきた。つまり、理性を取り戻し、感情ではなく理解しようとし始めたと言うことである。

ところでツイッター誕生の時に言われてきたことだが、その「つぶやき」は即時性、同時性にあり、「本音」であると。しかし、同時に感情剥き出しの言葉でもある。周知のように、「ツイート」と呼ばれる280文字(日本語、中国語、韓国語は全角140文字)以内のメッセージや画像、動画、URLを投稿できるパーソナルメディアである。その効用は大いに認めるものであるが、同時にその限界もまたある。生活者は明確には意識化されてはいないが、そのメッセージの短さに反応するだけになってしまう。つまり、次第に感情任せになり、深く考える理性判断へと向かうことが少なくなってしまった。その答えが「いいね」の一言に象徴される。どんな「いいね」なのか、「悪いね」はないのか、あるいは「どちらでもない」こころの揺れ動きは表現できなくなっていく。実は、そうした心理の環境の中で、「空気」は作られていく。

若い頃、広告というコミュニケーションを通じて目標とする「イメージ像」を創ることに携わってきた経験がある。外資系企業ということから多くのコミュニケーションの方法を学んだ。その一つがリーチ(到達の広がり)とフリークエンシー(回数・頻度)」というメディアの基本活用について出会った。単純化していうと、リーチという伝えたい視聴者の広がりとフリークエンシーという視聴頻度の関係で、どんなメッセージをどの視聴者層にどの程度の頻度で伝えれば、どんな効果(消費行動)につながるかという理論である。現在は大手広告会社によって、より効率の良い効果的なメディアミックスについて考えられている。横道に逸れてしまったが、こうしたメッセージを送る基本には「頻度」という回数多く送ることで、俗な言葉で言えば「刷り込み」である。
そして、このツイッターの時代はスピードが最大特徴であるが、反面深い理解を求めるメディアではない。それは「反応」であり、感情のコミュニケーションということになる。繰り返し断片的な映像やメッセージによって恐怖は深刻化していく。

今回のコロナ禍の場合、ウイルスの「恐怖」が徹底的にTVメディアを中心に刷り込みが行われてきた。その結果については前回のブログで「自粛警察」に触れ、差別や偏見が広く蔓延し、一つの空気感を創ることへと繋がってきた。その象徴は専門家会議・西浦教授による「このままだと42万人が死ぬことになる」発言であった。繰り返し、その功罪については書くことはしないが、このコロナ恐怖は次第に他の恐怖へと、抽象的な恐怖から身近な恐怖へと変化してきた。それは第一段階の小中高の一斉休校であり、社会・経済への影響がどれだけ甚大なものであるか実感することとなる。次に4月7日の緊急事態宣言による外出自粛という移動制限と休業要請であった。結果、家計はもとより対象となった飲食店をはじめ不安を通り越した恐怖に近い心理へと変化してきた。そうした恐怖を煽るような無自覚な報道から、次第に客観的俯瞰的なものへと変化してきた、その変化の中心には東日本大震災の時と同じように「現場」で苦労している医療スタッフへの感謝と支援があることは言うまでもない。

そして、この心理変化に大きな役割を果たしてくれたのが何回か取り上げてきたあのiPS細胞研究所の山中教授であった。「正しく恐れる」という感染症の基本認識が、その「正しく」が実は極めておかしな現実にはそぐわない結果になっていたことがわかってきたからだ。前回のブログで専門家会議がやっと公開したデータによれば感染のピークは緊急事態宣言の前であったことなど予測と現実がまるで異なるものであることがわかった。そして、感染の実態理解に不可欠である実効再生産数(1人の感染者が他者にどれだけうつしたか)の数値が緊急事態宣言の根拠にはなっていないことなど何のための専門家会議であるが極めて疑念を抱かせるものであった。
そうした誰もが疑念に思えるテーマを実は山中教授はそのHPで試算してくれている。勿論、その計算式を明確に公開し、試算していることは言うまでもない。「問題提起のために、専門外ではありますがあえて計算してみました。」とあるが、大阪をはじめ京都などの指標となる数値が計算されている。
また、もう一つ重要なことがわかりやすく説明されている。それは「The Hammer and the Dance」についてで、日本のコロナ対策の基本方針としていることを西村大臣から発表されているが、勿論専門家会議の主要メンバーである西浦教授の考えであることは言うまでもない。おそらくこの理論に沿って緊急事態宣言の解除、「出口戦略」が作られるものと思う。これはロックダウン(都市封鎖)支持派のテキストとして広く読まれているが、西浦モデルはこの考えに沿ったものだ。ロックダウンという言葉を使わないで、三密を踏まえて「接触率80%減」を目指すという目標設定をしたというわけだ。しかし、実はこの理論とは全く異なる「現実・結果」が日本では進んでいる。つまり、「ハンマーなしでダンス」を目指すということである。こうした西浦モデルの背景は山中教授によって丸裸にされたと私は理解する。
何回も言うが、専門家会議の立てた理論は現実によって破綻宣告されており、そうしたことが徐々に広がりつつある。TVメディアも5月3日TBSの「サンデーモーニング」ではレギュラーコメンテーターである寺島実郎氏は西浦教授の発言を指して「恫喝するような対策は許さない」と語気を強めてコメントしていた。あるいはTBSの午後の帯番組「Nスタ」でもゲストコメンテーターである中部大学教授細川昌彦氏も専門家会議のクラスター戦略に沿ったPCR検査の絞り込みよって生まれた多くの問題に対し、更には正確なデータ不備について、その象徴である東京都の実態について厳しく指摘をしていた。

こうした「空気」を更に変えたのが大阪府知事による「出口戦略」の発表であろう。これはわかりやすい数値目標、つまり府民にとって努力可能なものとして提示したものである。大阪の場合、遡って見てもわかるように、中国観光客のバスガイドが感染したことを踏まえ、徹底的にその行動履歴を明らかにして感染拡大を防ぐ行動をとった。その後周知の和歌山県で起きた院内集団感染感染拡大に対しても、和歌県の要請を受けてPCR検査を肩代わりする、つまり近隣県とのネットワークも果たしている。更に、ライブハウスで感染クラスターが明らかになったときもライブハウス参加者に呼びかけ、つまりここでも情報公開を行ってきている。更には早い段階で病床確保にも動いており、十三にはコロナ専門病院も用意している。・・・・・・・こうした情報公開と準備を踏まえたうえでの「出口」の提示であるということである。大阪府民が支持するのも当然であろう。少なくともPCR検査を含め東京都とは違いデータの収集分析はシステマチックになされている。勿論、他県も同様であるが、東京が正確なデータで「出口」を示せないのに対し、大阪はかなり先へ進んでいる。

こうした「出口」を示す大阪に対し、東京都はロードマップによって感染収束の道筋を示すと記者会見で都知事は説明している。何故ロードマップなのか、それはPCR検査の収集管理が統一されたシステムによって行われてこなかったことによる。例えば、新規の検査者と既存感染者の2回目3回目の検査とが混在してしまっていたり、検査結果と検査日の日数のズレなどがあったり、・・・・・・・・保健所の職員の人たちも苦労しているのだが、今なお手書き情報で収集しているといった超アナログな状態であると聞いている。こうした情報収集の結果から不確かなものとなり、例えば「陽性率」のような重要な指標が出せないでいる状態である。都知事は大阪と比較し東京の規模は大きいからと説明するが、東京都の人口は1395万人、大阪府は882万人である。何倍もの規模ではない。東京都民は新規感染者数のグラフを示されるだけで、感染がどのように拡大しているのか、それとも収束に向かっているのか一つの指標である実効再生産数の数値などはタイムリーに示されないままである。これでは「出口」を数値で提示し、目標とすることはできないということである。大阪は財政に余裕がなく府民の協力を得るしかなく、東京は財政的に余力があり休業補償などへの協力金が用意できることからと、その違いを説明する専門家もいる。こうした違いの象徴ではないが、大阪府が新型コロナウイルスと向き合う医療現場のスタッフを支援する目的で創設した基金への寄付額が10億円を突破したと報じられている。これは入院患者の治療にあたる医師など医療従事者に一律20万円を支給するとのこと。府民・都民の「出口」の受け止め方であるが、やはりリーダーシップの違いにあるとするのが常識であろう。

さて、出口戦略というからには当然「入り口」があったはずである。勿論入り口は緊急事態宣言である。大きくは外出自粛という移動制限であり、その移動先である対象となる業種の休業要請となる。この宣言が出されたのは1ヶ月少し前の4月7日であった。その入り口の根拠となるのが、周知の三密を避ける行動、「接触80%減」という西浦モデルであった。しかし、宣言を行う前に感染のピークとなっており、感染力となる実効再生産数も既に東京は0.5、大阪も0.7と感染収束に向かっている数値であった。何故、緊急事態宣言なのか。宣言など出す必要があったのかという疑義である。特に実効再生産数については専門家会議からはその数式も素データも提示されていないが、前述の通り、山中伸弥教授がすでに試算し公開してくれている。大阪の吉村知事もこの実効再生産数の数値を目標としたかったようだが、そのデータ根拠が既に発表されている政府の数値と異なることもあって出口戦略に組み込まなかったようだ。最終的には政府の責任となるが、その根拠をつくった専門家会議の責任は極めて大きい。

こうした背景から専門家会議主導のコロナ対策から、大阪をはじめとした各地域のリーダーシップによる「出口」への空気が一挙に変わりはじめた。TV局もそうしたことに反応し、面白いことに「2週間後は東京もニューヨークの惨状になる。地獄になる!」と予言した感染症の大学教授も、「脅し・恫喝」から「心配」へと発言のトーンも変化しはじめた。そして、特定警戒都道府県以外の地方はそれまでの規制解除が始まった。そうした動きを加速させたのが、ドイツや韓国など各国の解除である。
解除された地域で感染者が拡大するのではないかという心配はあるが、国民は今までもそうであるがこれからもその懸命さで乗り越えるであろう。その象徴としてサッカーのキングカズの提言である「ロックダウンではなく、セルフダウン」を裏付けるようなデータ「Google行動解析」によって確認されている。これも山中教授のHPにて公開してくれている。ロックダウン、都市封鎖をした各国との比較で「日本は欧米よりは緩やかな制限により、最初の危機を乗り越えようとしていることがわかる。」とコメントしている。ここにも「正しく、恐れる」賢明な成熟した日本人がいることが見て取れる。

また、5月8日の深夜厚労省は記者会見で、新型コロナウイルスのPCR検査について、新たな相談の目安を公表し、「37度5分以上の発熱が4日以上」とした表記を取りやめたとのこと。数ヶ月前から検査の抑制理由を、医療崩壊につながることからと専門家会議も説明してきたが、ここでもやっと検査方針の転換を認め始めた。指定感染症という法律の付けの問題もあるが、相談窓口に保健所の「帰国者・接触者相談センター」とした制度設計自体が既に破綻してきている。既に、江戸川区においては独自にドライブスルー方式のPCR検査センターが実働に入っている。
この厚労省のガイドラインの方針転換についても、それまで「検査の抑制は医療崩壊につながる」とTV番組などでコメントしてきた感染症の大学教授達は今後どんなコメントをするのであろうか。
こうした時代の空気を受けて、恐怖から「出口」に向かっていく。大阪における「出口」戦略は、今後起こるであろう第2波、第3波の「入り口」にもつながるものであり、大阪の動きからも学ぶべきあろう。(続く)

関連記事