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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年05月20日

新型インフルエンザに見る振り子現象

ヒット商品応援団日記No368(毎週2回更新)  2009.5.20.

新型インフルエンザについて、今関西で起こっている事は「過剰反応の連鎖」が起こっているように思える。その理由の一つは強毒性の鳥インフルエンザを想定した初期段階での空港等の水際対策にあったことによる。物々しい防護服の係官が検疫する様子が繰り返し繰り返し報道され、検疫礼賛であるかのようであった。つまり、水際対策で大丈夫という「安心」の種がまかれることになる。しかし、5月15日渡航歴の全くない、しかも空港とは関係のない地域の高校生が突如発病する。しかも、その発見は地元の開業医によってである。水際対策によって蒔かれた種は「安心」から「恐怖」へと変化する。恐怖は不確かな情報によって増殖され、「うわさ」となって恐らく全国に伝播されていくと思う。そうなると、「無関心」から大きく「パニック」へと振れる現象が起きる。これが高度情報化社会の特徴である。

実は、3年前に「うわさの法則」について書いた事があった。その原点ともいうべき「うわさの法則」(オルポート&ポストマン)を簡単に説明してみたい。

R=うわさの流布(rumor), I=情報の重要さ(importance), A=情報の曖昧さ(ambiguity)
< うわさの法則:R∝(比例) I×A >  
つまり、話の「重要さ」と「曖昧さ」が大きければ大きいほど「うわさ」になりやすい、という法則である。但し、重要さと曖昧さのどちらか1つが0であればうわさはかけ算となり0となる。つまり、うわさは伝播しないということである。

今回の新型インフルエンザ事件に当てはめてみると、まず情報の「重要さ」においては、新しいウイルスであり人命にかかわる重要さである。もう一つの情報の「曖昧さ」については、どのような新種のウイルスであるか解明されていない。うわさが流布される要件は満たしているが、やっと最近になって感染症の専門家によるコメントが報じられるようになった。今回の新型インフルエンザは通常の季節性インフルエンザと同程度の毒性を持つものであると。しかし、糖尿病や腎臓病、ぜんそくなどの患者、あるいは免疫力のない妊婦は重篤になる恐れがあるとも。やっと、曖昧さと重要さの一部ではあるが明確になり、自己防衛の在り方が見えるようになった。

私の場合、大きな社会的事件が起きるときだけ「2チャンネル」の掲示板を見る。「うわさの法則」どおり、2チャンネルには複数の掲示板が立てられ、発症した高校生の高校探しが書き込まれていた。あるいは、既に大阪ばかりでなく東京でも数千名単位の発病者がいるといった憶測の書き込みもあるが、現時点においては全国へと伝播するだけの強いうわさは無い。新型インフルエンザの例に倣えば、弱毒性のうわさであった。何故なのか。それは新型インフルエンザの持つ「不可解さ」に対し、謎解きできるだけの専門性も知識もないということに他ならない。単純に言うと、発症した高校探しは出来ても、何故発病したのが渡航歴のない高校生なのか、何故兵庫県なのか、その謎解きにのめり込めるだけの「うわさ」が伝播されるだけの土壌、そうした情報をほとんどの人が持たないからである。

しかし、問題は他にもある。初期段階におけるマスメディアの報道はどうであったか。防護服の検疫体制というおどろおどろした映像は心理の奥に焼き付けられている。更に大阪の通勤時間帯ではほとんど全員が防護マスク姿の異様な光景、閑散とした神戸南京街、マスクはどこへ行っても買う事が出来ない、関西方面への修学旅行の相次ぐキャンセル、逆に関西の中学生の修学旅行先のキャンセル、そんな情報ばかりが繰り返し報じられる。まるで、蒔かれた安心の種は既に恐怖へと変異しているにも関わらず、更にに水をまいているかの如くである。
既に東京に於いても防護マスクを買い求めるには至難のことになっている。巣ごもりできるように、レトルト食品を買い求め、あろうことかタミフルの個人輸入代行まで始まった。大阪のブロガーの一人は学校の臨時休校だけでなく、多くの人が集まるUSJや商業施設を閉鎖しろとまで言う。重要な事は、専門家による確かな判断と情報しかないのだ。初期段階でメキシコ政府による誤った死者数情報があったことを含め、私は新型インフルエンザの今を知る専門情報としてWHOのHPを見る事にしている。日本以外、不確かな過剰情報による過剰反応はない。ちなみに、WHOは今回水際対策を行った日本と中国に対し、隔離や停留のような人権侵害を伴う対策を実施する国は、その根拠を示すべきだと言っている。

ところで、少し前に巣ごもりから冬眠へ、と最近の消費傾向について書いた。今、関西地域は冬眠状態へと向かっている。前回書いた心理面だけでなく、物理的にも移動が自粛という形で制限され、家に、内に籠らざるを得なくなったからである。大阪府知事が正確な専門情報として水際対策からの転換を政府はメッセージを出すべきと発言したことは当然である。冬眠状態が続けば、経済ばかりか社会生活までもが危機となる。既に、糖尿病や腎臓病、ぜんそくなどの患者、あるいは免疫力のない妊婦といった方達を収容すべき病床が無く、危機は目の前にある。あるいはお年寄りのデイサービスが休止となっているが、それはいつまで続くのか、そんな不安が渦巻いていると聞く。手洗いやうがいの励行、マスクの着用は一度聞けば良いのだ。不安解消はこうした新型インフルエンザ難民の人達の問題を解決することにある。

更に問題は他愛もないうわさが新型インフルエンザと同じように、いつか変異して流行する恐れがあるということだ。その背景には、全国へと広がるであろう新型インフルエンザは必ず制圧できるが、またいつかどこかで更なる変種として現れる可能性を否定できない。強毒性の鳥インフルエンザは今なおベトナムやインドネシアに眠っていると専門家は指摘する。拡散したように見えるうわさも実は沈殿しているだけで、再び変異し動き出すであろう。
今、東京では新型インフルエンザが蔓延した場合の対策が、医師会を中心に街の開業医という現場で自発的に組まれ始めている。感染症の指定病院だけではあらゆる意味で患者に対応しきれないためだ。感染の疑い、もしくは軽症と見られる慢性的な持病をもつ患者には訪問治療まで検討されているという。つまり、不安の時代にあって、新型インフルエンザも、うわさも、現場でしか払拭し解決し得ないということだ。神戸の酒鬼薔薇聖徒事件の時もマスメディアは揃ってうわさを基に真犯人探しをした前科を持つ。今回、関西では大きなパニックには陥らなかったが、いつでもその恐れがあるということだ。今生活者は巣ごもり状態にある。多様なメディアの情報を手に入れ判断することが難しく、マスメディアからの情報に翻弄されやすいということだ。私は消費における振り子現象について数多く書いてきたが、今回の新型インフルエンザにおいても、「無関心」から一挙に「パニック」へと大きく振れる振り子現象が見られた。高度情報化社会の特質であると言ってしまえばそれで終わりであるが、言葉が伝わらない時代でもあるということだ。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:10│Comments(0)新市場創造
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