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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2020年05月03日

問われているのは「出口戦略」    

ヒット商品応援団日記No764(毎週更新) 2020.5.3.

問われているのは「出口戦略」    

ポストコロナ、あるいはコロナ後の世界といったキーワードが政治・経済をはじめ多くの分野で盛んに使われるようになった。いつの時代も予測好きはいるのだが、コロナ禍は現在進行中であり、少なくともまだまだ続く。そして聞こえてくるのは悲鳴しかなく、特に中小零細の飲食業の人たちの悲痛な声ばかりである。そうしたことを踏まえ、前回のブログでは「生き延びる知恵」を働かせて欲しいと書いた。ここ数日やっと日本経済への影響がリーマンショック以上の深刻さであることが報じられてきた。コロナ感染によって失われる命どころではない深刻なさが差し迫ってきていることにマスメディアもやっと気づき始めた。
ところで、「自粛」を促すには恐怖と強制が常套手段であると書いたが、「2週間後にはニュークになる」「地獄になってる」といった恐怖を煽るようなTVコメンテーターの発言も事実がそのように推移しなくなったことからその刺激的な発言もトーンダウンしてきた。一方私権を制限することが法的にもできない日本においては「強制」できない現実から「自粛警察」といったキーワードが流行る嫌な現象が生まれている。『自粛警察』とは、例えばクラスター感染のシンボリックな場所・施設となったライブハウスへの中傷で、営業中の店舗などに休業を促す張り紙をしたり、張り紙に文言を書き込んだりすることを指すとされる。他にも居酒屋など休業要請を指定されてはいない店舗への嫌がらせも出てくる状況が生まれている。私に言わせれば、「正義」の仮面をかぶった一種の嫌がらせであるが、憎むべき敵であるコロナウイルスが休業していない店舗にすり替えられての行為が至る所で見られるようになった。「恐怖」はこうした中傷をはじめとした差別を連れてきている。その象徴が『自粛警察』である。

こうした社会が生まれないように、新型コロナウイルスに関する「情報」を今確認できる事実に基づき、理性的に抑制的に伝えたいと発言しているあのiPS細胞研究所の山中教授医のHPを敢えてブログに書きリンクまでした。過剰な情報の中で、「何を」信用したら良いのかという直面する課題に対してである。山中教授の最新のHPの中に「新型コロナウィルス感染症対策に関する、研究者・臨床家から報道機関への要望書」が提言されており、その中で米国NYの医療従事者の自死に触れ「このウィルスは未知であるがゆえに、 人々の不安や分断を引き起こし、感染者に対する差別や偏見が高まっています。特に、もっとも感染リスクの高い医療従 事者が、差別や偏見を受けるという残念な状況も起きています。」と報道機関に向けて書かれている。
差別や偏見を助長している一つに報道があり、その根底には未知のウイルスであるが故の「不安」と「恐怖」がある。特にTV番組がそうであるのだが、ワイドショーという名前がそうであるように「ショー」という演出を否定はしないが、過剰なまでの表現・発言が多い。先日もテレビ朝日「モーニングショー」で”東京都の新型コロナウイルス感染者数が39人だったことについて、「(すべて)民間(医療機関)の検査の件数。土日は行政機関の(検査をしている)ところが休みになる」と発言したことについて、誤りだったして謝罪した。”多くの生活者が極度に敏感な中での誤りは極めて重大である。自覚なきTV番組はいずれ淘汰されるであろう。

ところで来週の5月6日には緊急事態宣言が発令されて1ヶ月になる。専門家会議や日本医師会は延長する可能性を示唆し、安倍首相もその方向で検討に入っていると報じられている。前述のテレビ朝日の誤報道ではないが、緊急事態宣言の発令の時、安倍首相は以下のようにその背景・根拠を記者会見で説明している。

「東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。」

さて感染の現実はどう推移してきたかである。毎日のように感染者数は報道されてはいるが、東京都の感染者数は4000名ほどで後数日で8万人に至るであろうか。感染症専門家でなくても到底至らないことは自明である。政府は専門家会議の提言を受けての発令であるが、その専門家会議の提言の根拠が示されていないため一定の理解はあっても実感し得るものではない。未知のウイルスであることから予測は当らないとする意見もあるが、現実はまるで異なる結果となっている。
何故、そうした誤差とは言い難い結果となっているのかまるで理解しがたい。多くの国民が自ら「自粛」した結果であるという意見もあるが、果たしてそれで納得できるであろうか。少し前のブログにも書いたが、「理屈」では納得はしない。行動の変容を促すには強制と恐怖であると指摘をしてきた。勿論日本は私権を制限することはできないことから「自粛」という方向を打ち出し、私も賛成するものであるが、「恐怖」を根拠とした政策には同意できない。その根拠であるが、専門家会議のメンバーである西浦教授の説明によれば(YouTube)、感染拡大の数理モデルにはドイツにおける感染率、実効再生産数1.7を使ったとのこと。実はこの数理モデルの鍵はこの一人の感染者が他者何人にうつすかという変数の設定にあることがわかる。実は今回専門家会議からの説明でやっとこの鍵となる数値が出てきた。
その中で注目すべき驚くべき内容が明らかにされた。確か3月中旬時点での感染率、実効再生産数1.7を使ったとのことであったが、やっとこの現実データが明らかになった。ちなみに4月10日時点での全国庭訓では0.71、東京においてはなんと0.53であったという驚くべき事実であった。しかも、安倍首相が緊急事態宣言を発令されたのは4月7日である。実効再生産数は1以下であれば収束に向かい、1以上であれば感染拡大に向かう値される指標であるが、発令の時にはある意味収束に向かっていた時期であった。この実効再生産数は日本の場合、算出するのに時間がかかっているとのことであるが、安倍首相の発令時に説明した理由にあった感染拡大の数しがまるで異なる結果になったのはある意味当たり前のことである。

もう一つ出てきたデータが感染者がいつ発症したかというデータである。TV報道においても繰り返し確認されているが、PCR検査によって確認された日と実際に発症した日にはほぼ2週間ほどの違いがあると。今回やっと発症日という正確なデータが公開されている。このデータ(グラフ)を見てさらに驚いたのは感染のピークは4月1日であったということである。緊急事態宣言の1週間前であったということである。そして、そのピーク時はあの志村けんさんが亡くなった日(3月29日)とほぼ重なっていることに気づく。当時の衝撃について次のようにブログに書いた。

『前回のブログでTV番組出演し感染の恐ろしさを繰り返し話しても伝わりはしないと指摘をしてきた。感染学の講義、つまり「理屈」では人を動かすことはできないということである。数日前に亡くなったコメディアンの志村けんさんの「事実」の方が衝撃的なメッセージとなっている。感染後わずか6日後に亡くなってしまうその恐ろしさ、最後の別れすらできない感染病のつらさ。それらは極めて強いメッセージとして心に突き刺さる。いみじくも政府の専門家会議の主要メンバーが国民に「伝えられなかった」と反省の弁を述べていたが、その通りで志村けんさんの「死」の方が何百倍も伝わったということである。』

専門家会議の提言を踏まえ緊急事態宣言が1ヶ月jほど延長されることになると思うが、コロナ危機の出口戦略についてまるで見出すことができていない専門家会議だけの方針では不十分と言うより経済の専門家の意見をも取り入れなくてはならない。続々と倒産件数・失業者数が増えてきている。企業破綻は即家計破綻であり、社会のシステムをも壊し始めている。その破綻を防ぐ一つの示唆をあのiPS細胞研究所の山中伸弥教授はその更新された一番新しいHPで明確に次のように提言してくれている。

有効再生産数(Rt)が経済活動再開の指標
『武漢での1月から3月までの有効再生産数(Rt)に関する論文を紹介し、アメリカの経済活動再開を決めるための指標として、CDCが全米および各州のRtを毎週発表することの重要性を主張している。活動を徐々に再開してもRtが1を超えないかを確認してく必要があると主張している。科学的根拠に基づいた透明性の高い政策決定が求められる。』

つまり、多くの感染ウイルスがそうであるように、今回も長期化していく。問われているのはその「出口戦略」で、経済抜きではあり得ない。専門家会議の提言にある「新たな生活様式」は単なる戦術レベルの話で、問われているのは社会経済全体への「指標」となるものではない。「三密」を否定はしないが、必要なのは長期に渡ってウイルスと付き合っていく「物差し」である。慶應大学病院や最近では神戸市立医療センター中央市民病院において「抗体検査」が行われている。同病院のチームによれば、4月7日の緊急事態宣言が出る前に、既に2.7%に当たる約4万1千人に感染歴があったことになるという。何故、感染しているのに発症しないのかと言う「免疫」の問題である。ある意味ウイルスと共生していくことになると思うが、その根幹となる「免疫」の解明である。専門家会議も「クラスター対策班」から、「免疫解明班」にシフトした方が良いかと思う。

ところでここ数年個人においても企業においても、ある意味「三密」が求められてきた経緯がある。例えば、「気合わせ会」といった小さな飲み会に会社から援助金が出たり、全社レベルにおいても運動会のようなイベントが行われ職場単位で競争したり、・・・・・こうした個人単位、専門部署単位の仕事の壁からひととき離れた時間や場所が求められてきたことによる。つまり、既にテレワークなどと言わなくても現実は先に進んでいるのだ。「自粛」と言うキーワードに変わるものがあるとすれば、それは「自制」であろう。更に、個々人、個々の企業、個々の団体、が自制すると言うことだが、その自制の中にアイディアもまた生まれる。
コロナ禍の震源と揶揄されたライブハウスがネットを使った「ライブ配信」をはじめたように。飲食では店頭での弁当販売からチルド商品や冷凍食品にしてネット通販を始めているように。つまり、新しい業態の可能性を探っている。これらは「自制」の模索から生まれたものだ。言うまでもなく、この「自制」とは顧客との関係におけることで、「自粛警察」とは真逆のことである。サッカーのキングカズが提言しているように、ロックダウンではなく、「セルフダウン」の意味と同じである。自ら律した行動を取ろうと言うことだ。現場的に言えば、「自制」の先に出口が見出せると言うことである。(続く)

型コロナウイルス感染症対策専門家会議
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000627254.pdf


タグ :出口戦略

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