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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2019年02月03日

嵐とAKB48 

ヒット商品応援団日記No724(毎週更新) 2019.2.3.

アイドルグループ嵐が2000年12月末をもって活動を休止すると発表され、大きな話題となっている。「アイドル論」を語らせるならば中森明夫氏がふさわしいが、AKB48についてもそうだが、私も再三再四ブログに取り上げている。それは広く社会現象化した場合、その背景と意味について大きな関心をもっているからである。もっと直裁な言い方をするならば、「時代」がアイドルを求めているからで、今どんな時代にいるのかを切り取ってみることが必要であると考えている。
確か2011年ごろであったと記憶しているが、シングル売上TOP10は嵐とAKB48が独占したとオリコンから発表があった。時代が求めたアイドルという表現をするならば、両者は全く異なる世界から生まれたアイドルであった。嵐は周知のように大手芸能事務所であるジャニーズ事務所に所属し、いわゆるマスコミと言う「表通り」のアイドルであったのに対し、AKB48は秋葉原駅「裏通り」の雑居ビルから誕生した「オタク」のアイドルであった。2つの異なる世界もまたこの時代の象徴と言えなくはない。

その2つのアイドルが大きな転換点を迎えている。嵐のリーダーである大野智は、「一度何事にも縛られずに自由な生活がしてみたかった」と記者会見で語ったことが印象的であった。勿論、40歳近くになった各メンバーの「自由」を求める背景や思いは異なると思うが、誰でもが思うことの中には自由に時間を使ってみたい、あるいは「結婚」と言う人生を決める自由もあるであろう。実はこの自由願望は時代を超えたアイドル固有のものであった。
その象徴があの山口百恵であった。若い世代にとって遠い存在となった山口百恵であるが、風貌は素朴、純朴、誠実、といった言葉が似合う幼さが残る歌手としてデビューする。しかし、そうした「少女」とは真逆な「大人」の性的さをきわどく歌い、そのアンビバランツな在り方が一つの独自世界をつくったアイドルである。確か週刊誌であったと思うが、百恵が歌っている最中、風かなにかでスカートがめくれた写真が掲載され話題となったことがあった。その時、百恵はその雑誌社に本気で抗議し、「少女」であることを貫いたのである。(このことはAKB48グループについて触れることとする。)
周知のように山口百恵は映画で共演した三浦友和と結婚するのだが、日本国中といったら言い過ぎであるが、その結婚に対して大きなブーイングが起きる。結果、「私のわがままな生き方を選びます」とコメントし、1980年に21歳という若さで引退する。百恵エピソードは数多く語られているが、「自由」であることを求め1970年代という時代を駆け抜けた「少女アイドル」であった。

この同時代には3人組のアイドルグループであるキャンディーズも活動し、「普通の女の子に戻りたい!」と1978年にわずか4年半の活動に終止符を打つ。これも「自由」を求めての解散であった。この解散発表によって逆にキャンディーズの人気は沸騰し、ラストシングルの「微笑がえし」では、最初で最後のオリコン1位を獲得する。今回の嵐の休止発表によって、フアンクラブの会員応募が急増した現象と同じ現象が1970年代に起きていたと言うことだ。

ところでこうしたアイドル現象は多様なアイドルを生み出していく。山口百恵もキャンディーズも「憧れ」と言う遠い存在であったが、「会いに行けるアイドル」と言うコンセプトをもって登場したのが周知のAKB48であった。しかも、「会う」だけでなく、「握手」までできるアイドルとしてである。それまでのアイドルとの関係、アイドル像を根底から覆す画期的なことであった。そして、周知のように「総選挙」と言うアイドル同士の競争の仕組みを導入し、結果フアンもより過熱化し、オタク化し、過激化していく。しかし、この「競争」は組織が肥大化すると同時に、アイドル自体に多くの「歪み」が生じると同時に、オタクの側にもコアなオタク以外にもストーカーどころか思い違いから暴力を振るうフアンまでをも内在させることとなる。

また、百恵は「少女」であったが、同時にそのスカートがめくれた写真の反響の大きさから、新たなビジネスチャンスとして「大人」としてのアイドルが生まれる。これが、後の「グラビアアイドル」や「萌え系キャラ」へと進化していくのである。面白いことに東京秋葉原には会いに行ける「少女」であるAKB48の常設舞台があると同時に、メイドカフェやコスプレといった「萌え系キャラ」を売り物とした店が数多くあり、ある意味女性という「性」の商品化が進んでいく、そんな時代の臭いを色濃く映し出した街アキバへと変貌していく。

話を戻すが、AKB48のグループのひとつである新潟を拠点に活動するアイドルグループ「NGT48」の山口真帆が暴行被害にあったのも、競争から生まれる妬みや嫉妬が原因と言われている。AKB48だけで100人超、国内姉妹グループ合計で約400人と多く、運営会社は十分なケアできる体制にないと言うことが露呈。成長ではなく、膨張状態といったほうが正確であろう。所属している限り「恋愛はご法度」と言うのがAKBグループの約束であり、「少女」として振舞わねばならない。競争に勝ち抜くためのフアンとのコミュニケーションを始め、心のケアに対し運営会社のマネージメントは不可欠であるが、「膨張」に対応できなかった結果である。

さて今回休止発表された嵐であるが、山口百恵との対比で言えば、「少年」となる。育ちの良さがわかる明るい性格、言わば優等生、普通の少年で声をかければいつでも応えてくれる身近な少年ということになる。国民的アイドルとして呼称されてきた嵐のアイドル像である。そこには世俗にまみれたアイドルではない清潔さがある。一時期甲子園のアイドルであったハンカチ王子齋藤佑樹によく似ている。当時中高年のおばさん達の間で流行った言葉に「自分の娘のお婿さんにしたい」があったが、嵐もそんな受け止め方をされている。
AKBグループについて「膨張」という表現をしたが、所属するジャニーズ事務所もまた次から次へとアイドルを誕生させている。しかし、周知のようにそのアイドルの現場はというとひとつの臨界点を迎えていることがわかる。稼ぎ頭とでも言える主力グループであるSMAPは2016年12月31日で解散。TOKIOや関ジャニ∞もメンバーが離脱。Newsに至っては不祥事の連続により空中分解の危機。現在はKing & Princeの急成長を待つしかない、といった状況が生まれている。

アイドルを「アイドル市場」という視点から見ていくと、ここ数年の不祥事を含めた社会現象がよくわかる。メジャーなアイドルのみならず地下アイドルまで含めると全国で約3000組が活動していると言われている。最早成長ではなく膨張であり、もっと簡潔した表現をするならば「アイドルバブルは終焉した」ということだ。同じような情報型商品である「ゆるキャラ」もブームと称されたように、その話題としての訴求力は一過性である。「くまモン」始め一部残っていくと思うが、情報としての鮮度はすでに失っている。
このように情報鮮度を失った時、通常事業経営の場合どうするか、それは新しいメニューの導入や業態の転換によって再生を目指すこととなる。それでも経営として成立しない場合は周知のように撤退、廃止、最悪の場合はリストラ・倒産ということになる。アイドル市場の場合は所属運営会社とアイドルは個人契約となっているのが通常であり、その「個人」は仕事が減り転職せざるを得なくなるということである。

時代がアイドルを求めていると書いたが、情報発信という視点に立てば、全てがメディア足りえる劇場がアイドルを求めているいるということである。嵐とAKB48という対比の中でアイドルを見てきたが、明と暗、表と裏、日本と世界、あるいはアイドル市場をもう少し広げてみれば、例えば正義のヒーロー役と悪役・ヒール役・・・・・・情報は劇場の境目を超えることによって、メリハリのあった異なる世界を溶解させてしまっている。「私のなかだけにあるアイドル」として、俗的なるもの、日常的なもの、誰もが触れえるものであってはならなかったアイドル。そのように「私」という虚構に閉じ込めてしまうものがアイドルであったが、その虚構という境目も無くなり、「私」にとってアイドルは憧れではなく、友達や孫のような感覚存在になったということだ。そして、それが「過剰」となった時、アイドルは終わる。

昨年、さいたまスーパーアリーナ公演をドタキャンした沢田研二が記者のカメラの前で中止した理由を説明をしていた。真っ白な髪に口髭、かなり太った印象で、若い頃のジュリーとは異なっていた。「老いさらばえた」と表現する人もいたが、年相応の「人間」になっており、それもまた素敵ではないかと私は思う。
あまりうまい表現ではないが、嵐も「大人のアイドル」への転換であり、「自由」を生きる生身の人間としての魅力創造へと向かうであろう。アイドルもまた転換期を迎えているということだ。
さてもう一つのアイドルであるAKB48をはじめとしたアイドルグループはどうなるか。「膨張」というバブルは崩壊し、「個」の魅力を備えた少数メンバーだけが生き残っていく。嵐が「大人のアイドル」とすれば、「際立った個性アイドル」ということになる。(続く)

タグ :アイドル

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