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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年11月05日

時代病

ヒット商品応援団日記No564(毎週更新)   2013.11.5.

前回阪急阪神ホテルズによるメニュー偽装について書いたが、その後次から次へと多くのホテルやレストランで同様の不祥事の発表があった。阪急阪神ホテルズが行なった最初の記者会見の過ち、特に破綻した船場吉兆のような刑事事件にならないために、具体的には不当競争防止法に抵触しないように「誤表示」であったと強弁したこと。そこには大切にすべき「顧客」がいない、そのことに消費者の反発が大きかったからだ。そんなことを受けての不祥事発表であった。
その阪急阪神ホテルズの2回目の社長辞任を踏まえた会見では、その辞任理由として、やっと阪急ブランド、阪神ブランドが毀損してしまうことへの責任であるとの説明があった。
ブランドを形成するには多くの人の手と時を経て創られる。ブランドは企業にとって大きな財産の一つである。この財産は一人ひとりの顧客によって創られ、それが継承されブランドとなる。こうした得られた信頼を土台にした期待値の創造は、つまり心理価値にウエイトを置いたものは、当然偽装という負の情報刺激が大きければ一挙にブランドにおける心理価値はマイナスへと大きく振れることとなる。阪急阪神ホテルズはやっとそのことに気づいたということであろう。そして、同じようなメニュー表示をしていた全国のホテルやレストランが後を追うように記者会見がなされた。

実はかなり前になるが、長きにわたって活動している老舗企業ついて調べたことがあった。平たく言えば、つぶれない、その持続力は何か、ということを明らかにしたかったからである。その背景には日本ほど老舗企業が今なお活動している国はないという事実がある。創業200年以上の老舗企業ではだんとつ日本が1位で約3000社、2位がドイツで約800社、3位はオランドの約200社、米国は4位でなんと14社しかない。何故、日本だけが今なお生き残り活動しえているのであろうか。その答えの一つが宮大工の金剛組にあった。創業1400年以上、聖徳太子の招聘で朝鮮半島の百済から来た3人の工匠の一人が創業したと言われ、日本書紀にも書かれている宮大工の会社である。
宮大工という仕事はその表面からはできの善し悪しは分からない。200年後、300年後に建物を解体した時、初めてその技がわかるというものだ。見えない技、これが伝統と言えるのかも知れないが、見えないものであることを信じられる社会・風土、顧客が日本にあればこそ、世界最古の会社の存続を可能にしたということができる。

さて、過剰な情報が行き交う現在にあって、恐らく見えない何かを感じ取ってもらうことは極めてと難しい時代であると言えよう。そうしたなか、商品やメニューだけでなく、伝え方においても「違い」を追求する時代となった。その象徴的キーワードが「サプライズ」である。ちょうど10数年前から、驚くような表現、感情を揺さぶるような劇場型演出が至るところで見られるようになった。あたかも新しい価値が生まれたかのように。その行き着く先が「産地」を変えたり、「原材料」を変えたり、いかにも美味しそうな形容表現、他とは一味も二味も違うメニュー表現へと行き着く。ここに情報の時代の大きな落とし穴がある。
一方、顧客の側においても、夥しい数のブランド化された産地や品種、あるいは店名やシェフ名といった情報だけでそれだけで満足してしまう駄目な顧客、表面的なブランドオタクもいる。ある意味自らの五感で味わうことのない駄目な顧客がメニュー偽装の土壌を作っているという否めない現実もある。

来年4月には新消費税8%が実施される。円安を含めたエネルギー価格の上昇は物価へと波及し、収入が増えないなかでのインフレ経済となる。今回の不祥事は単なる一部の企業だけのことではない。悪意のない単なる誤表示やヒューマンエラーを含めるとかなりの広がりのある時代病とでも言うべき傾向が見られる。特に、JAS法という明確なガイドラインのあるメーカーは別として、そうした法的規制のゆるい外食産業は厳しい経営にあってこうした時代病にかかりやすい。
しかし、こうした時代であればこそ、見えない技、見えない気遣いや配慮、細部にこそこだわる、・・・・・・こうしたプロによるホテルやレストランは勿論存在し、またそのことを十分感じ取り共感するフアン顧客もいる。残念ながら消費増税は明確な法律違反ではない、いわば脱法的行為、抜け穴のような表現や仕組みといった時代病をまん延させる。しかし、そのことが分かったとたん顧客は一切消費などしないであろう。あまり良い表現ではないが、消費増税は本物だけを生き残らせる。いや逆に本物への集中現象があらゆるところで多発する時代となる。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:38Comments(0)新市場創造