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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年10月19日

居心地の悪い空気感

ヒット商品応援団日記No520(毎週更新)   2011.10.19.

ブログの更新に大分時間が経過してしまったが、前回「安全の見える化」というタイトルで原発事故による放射性物質の拡散による検査結果を具体的な数字をもって表示することが安心・信頼獲得への道であると書いた。その後、やっと日経MJ(10/12号)はどこまで検査数字を表示したらよいのか小売現場では困惑していると取材レポートがあった。この取材のなかで「通販生活」で知られているカタログハウスではチェルノブイリ事故後ウクライナが制定した安全基準に基づいた基準、放射性セシウムは果物では1キロ当り70ベクレル以下、野菜は40ベクレル以下とし、検査数字を店頭表示している。ちなみにこのカタログハウスの基準値は日本政府の暫定規制値500ベクレルと比較してかなり低く設定されている。更に、あのエブリデーロープライスを実現した中堅スーパーのオーケーでは消費者の要望から野菜・果物については西の地域の商品仕入れとし、割高となった物流コストから価格表示にはその旨を説明し了解を求めるといった店頭表示としている。前回私が指摘をしたように「安全の見える化」が始まっているということだ。

また、先日東京世田谷の区道で高い放射線量を計測したとして詳しく調べて欲しいと市民団体から区に対し要請があった。詳しく調べた結果、幸い放射性物質がラジウムであったが、横浜市港北のマンション屋上など3カ所からはストロンチゥムが検出され、千葉船橋市の公園ではセシウムの線量の高い場所が発見され除染された。更にその後都内葛飾区や足立区でも同様のいわゆるホットスポットが見つかった。既に多くの住民、市民団体が線量計を持って調べに向かっているということである。本来であれば行政が行うべきことであるが、汚染が広域に広がっていることは分かっており、一種の自己防衛策であるが、行政と住民とが一つの仕組みとして汚染マップを作り、除染も住民が行えるところとプロに任せるところを明確にして実行しなければならない。

市場は心理化されていると何度かブログにも書いてきたが、情報の時代ならではの特性である。心理を動かすもの、それは情報に他ならない。情報のあいまいさ、不可解さこそが不安の源となる。そして、不安はそのままであれば更に増幅される。こうした不安を払拭するには、今回のような放射能汚染の場合、自らが除染という行動に向かい、しかも除染後の線量が低くなる実体験によって不安は解消される。放射能という見えない世界を除染後の数値変化をリアル体験、見える化体験することによって安心が生まれるということである。
もう一つの方法がソーシャルメディアの活用であろう。但し、このインタラクティブなメディアも少し前のやらせブログではないが、生半可な会話であると逆効果となる。一対一の徹底した会話によって、あいまいさ、不可解さを払拭していくことである。米国ではソーシャルメディア担当者の人件費に見合う効果が得られているか、といった投資評価のスタディが進んでいる。IT活用であれ、アナログな店頭でのコミュニケーションであれ、深いコミュニケーションが必要な時代であるということだ。

ところで7月から始まった節電を義務づける電力使用制限令が解除され1ヶ月半ほど経過した。解除から1〜2週間は駅も電車内も明るくなり、エスカレーターも動き、以前のような日常に戻ったなと、あるいは節電による暗さも我慢できる範囲内で慣れればそれほど違和感はないなといった感想をもったが、3.11以前のような活気のある街、一種の喧噪感のようなものはまるで感じられない。iPhone4S発売の行列にも、有楽町駅前の阪急メンズ館やルミネのリニューアルオープンにも、それなりの話題はあるのだが、どこか澱んだ空気に包まれている。
物が売れていない訳ではない。8月度の百貨店協会のレポートにもあったが、例えばロレックスのような高級時計も売れ始めており、永く使えるお気に入り商品への消費も戻って来ている。しかし、3.11の衝撃の裏側では年金の支給年齢の引き上げやG20では消費税を10%とする国際公約が発表され、消費が更に停滞・収縮する政策が進んでいる。こうした漠とした不安と共に、気持ちの落ち着き場所が定まらない、居心地が悪い、そんな空気感が社会に漂っている。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 14:30Comments(0)新市場創造