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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年10月28日

巣ごもり消費とコミュニケーション

ヒット商品応援団日記No414(毎週2回更新)  2009.10.28.

ここ数年、顧客の変化によって多くの業界の再編・統合が行われてきた。その根幹には市場、顧客の変化があり、そのライフスタイル変化を映し出している流通の変化について多くを書いてきた。ところで、マスメディアは自分自身のこともあって、ほとんど取り上げてこなかったテーマの一つに広告がある。私自身若い頃広告代理店でマーケティングに携わり、自らの変化を語らなければという思いがあったが正直難しいことでもあった。書店には10年前に較べ、マーケティングの本は少なくなり、広告に関する本はほとんど無いに等しい。そうしたなかで、正面から向き合ったのが書籍では「明日の広告」(佐藤尚之著)と、確か「週刊東洋経済」(1/31号)ぐらいである。広告代理店においても、既に何回かの再編統合を終え、TV局も少なからず数年先には再編が行われると思う。巣ごもり消費の影響は広告代理店にも大手マスメディアにも多大な影響が及んでいる。特に昨年秋以降、TV局のCMに番宣(自社番組の宣伝広告)が急増し、いかに空き枠が多いか誰でもわかる。

周知のように、マスメディア広告は、顧客がマスとして市場形成されていた時代には極めて有効で効率の良いマーケティング手法であった。しかし、大量生産大量販売の時代から少量生産少量販売へと移行する時代には、逆に広告という大きな投資の効率を落とし、無駄を産むことへと変化した。好みも多様化し、メッセージを伝えるメディアも多様化する時代、つまりマスメディアが相対的に情報価値を失っていく時代にあって、いち早くパーソナルマーケティングへ、ネット広告を含めたメディアミックスへと転換したのが広告代理店であった。しかし、今なお、こうした変化に向き合う、広告を唯一の収入とするビジネスモデルの転換をはかれていないのが、日本のマスメディアである。

1990年代半ば、セントラルバイイングという考え方が米国からもたらされる。マスメディアの購入を一社に集中させ、安く仕入れる方法で、クライアント(広告主)はそれを複数の広告代理店に競争入札(コンペティション)させる仕組みである。今で言う、一括大量仕入れによるコストダウンである。メディア売買において、激烈な価格競争が始まった。マスメディアの売上に大きく依存してきた広告代理店はそのビジネスモデルを転換させるが、転換できなかった広告代理店は再編・統合へと向かった。
また、広告主は広告メディアの購入と広告内容(クリエイティブ機能)を分離させ、従来の一貫性あるトータルサービスを変える。商品開発のための各種調査は、既に広告主自身が直接専門調査会社に依頼をしている。つまり、広告主自身が市場創造というマーケティング機能を持ったということである。
そして、昨年のリーマンショック以降、未曾有の不況により広告は激減する。マスメディア広告の中心は車、家電、食品、住宅といった業種であるが、大企業だけでなく、広告産業の裾野をつくってきた中堅企業や地方企業の広告出稿はほとんど皆無に近い情況となる。

しかし、広告代理店も広告制作に携わっている人も原点に帰ればよいのだ。何故、広告やコミュニケーションを必要としたのかを。想定する顧客のメディア接触に従ってメディアを選び、「明日の広告」を書いた佐藤尚之氏のように顧客に向けてラブレターを書けば良いのだ。思いは通じる、そう信じてラブレターを書いた筈である。勿論、ふられることもある。何が原因でふられたか、本人(商品)であれば気に入られるように手を加える提案をすれば良い。何年か前に、「地方ビジネスはおもしろい」と書いたことがあった。それは素材としては極めて良いのに、一工夫、一手間がないために商品になっていない、という指摘であった。例えば、地方の例ではないが、サントリーウイスキー角瓶の復活を思い起こせば良いかと思う。右肩下がりの典型であったのが、ウイスキー市場である。嗜好の傾向としてはソフトドリンク化の中で、いかに強い度数のウイスキーを売っていくかであった。サントリーがメニュー化したのがハイボールで、その直営店として昨年東京青山にショットバーをオープンさせた。単純化してしまえば、ウイスキー(素材)+炭酸(素材)=ハイボールをメニューとし、若い世代にとって新鮮な飲み物とした。私のような世代にとっては古くからある飲み物であるが、若い世代にとってはOld New、温故知新である。そして、ショットバーばかりでなく、居酒屋などの料飲店にもハイボールが浸透してきたことは周知の通りである。

全てを小さな単位で見ていくことだ。少量生産少量販売の時代に沿って、広告代理店も、広告制作会社も変わることである。もう少し分かりやすく言えば、小売業的発想で商品を見ていくことだ。顧客の目が厳選から減選へと進化しており、逆に多くを売るのではなく、減選しやすいように小さく売ることである。巣ごもりする生活者の小さな消費欲望に対し、ていねいに小さく応えていくということだ。発想はこうだ、一人ビジネス、一坪ビジネス、一コーナービジネス、一商品ビジネス、一時間ビジネス、一テーマビジネス、あるいはワンコインビジネス、「一(いち)」という最小単位でビジネスの可能性を追求していくことだ。
サントリーウイスキーにはオールドもあれば山崎もある。しかし、一番価格の小さい角瓶を選び、ハイボールという商品化をした、これが巣ごもり生活時代のマーケティングである。

広告を始めとしたコミュニケーションも饒舌な世界から、生活実感の伴った”自分のことをよく理解してくれているな”という世界へと変化している。その代表的事例が、隙き間市場、ニッチ市場という小さな市場を掘り起こしているのが”あったらいいなをカタチにする”小林製薬である。小林製薬の広告を担当しているのは小さなハウスエージェンシーである。小さな市場に対する商品を明確にブランドとして育てる、業界用語でいうとブランドマーケティングを採用し実行している会社である。各種の消費者調査を始め、広告は勿論のこと流通に対するプロモーションから店頭のPOPに至るマーケティングの全てをサポート&実行している数少ない会社である。
小林製薬の”あったらいいなをカタチにする”は困っている顧客に対するラブレターである。それは単なるコミュニケーションだけでなく、商品そのものがラブレターとなっている、そんなことを必要としている時代にいる。

過剰な情報の時代とは「知っているようで何も知らない」時代のことであり、広告も過剰な情報の一つである。サントリーのハイボールも小林製薬の”あったらいいな”商品も、小さな特定マーケットを対象としたものだ。そのためには、生活者研究、ライフスタイル変化への気づき、そんなアンテナを常に張り巡らしていなければならない。いつかこのブログにも書いてみるが、2〜3年前には「女性にとって、一駅電車に乗ってでも買いたいパン屋さん」、そんな現象が至る所で見受けられた。今、美味しいと言われた大手パン専門チェーン店の売上がかなり落ち込んでいる。厳選から減選という消費傾向を表している業態の一つであるが、価格以外の要因であるか否か、また明らかになったら報告したい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:41Comments(0)新市場創造