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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年10月04日

自明灯(じみょうとう)

ヒット商品応援団日記No407(毎週2回更新)  2009.10.4.

この春のユニクロ・guから始まったジーンズの価格競争に西友(ウォルマート)が850円という最安値で参入した。いち早く300円を切る弁当を発売してきた西友であるが、やはり参入してきたなというのが私の素直な実感である。顧客の倹約・節約意識に応えるにはやはり低価格帯商品を用意しなければならない。ただ、日本の場合はどうであるか分からないが、米国のディズカウント業態の内、リーマンショック以降ウオルマートが抜きん出て好調であるという。その背景には、ウォルマートの顧客のほとんどが低・中所得層であったが、年間所得1000万円前後の高所得層もウォルマートに足を運ぶようになったという。勿論、高所得層向けの商品MDを拡充したことによるもので、低・中所得層の購入単価と比較し、40%ほど高くなっていると聞く。おそらく、日本の場合も同様の傾向が、例えばOKストアなどで見られるのではないかと思う。つまり、高所得層を含め幅広く不況感が蔓延しているということだ。

不況時にはディスカウント業態が売上を伸ばし、高所得層を主要顧客とした百貨店やハイブランドなどの専門店は売上を落とす。好況時にはその逆の現象が起きると言われてきた。ここ2年ほど消費傾向と流通変化を見ていくと過去と同じような情況となっているのが分かる。しかも、その動向を左右するのがやはり高所得層の動向ということである。
ところで、今回の大不況は経済の専門家だけでなく、ごく普通の生活者にとっても等しく中長期にわたることを理解・実感している。この根底には「これから何で飯を食べていくのか」という産業構造の転換が不可欠であり、そのためには多くの時間を必要とすることを理解しているからである。1970年代、2度にわたる石油ショックによって銀座の街のネオンが消えた。以降、日本は産業の高度化をはかり、大きく輸出内容が変わっていく。今回はネオンが消えるどころではなく、銀座の街並それ自体が変わり、それがグローバルな変化であることを理解しているからだ。

一昨日、9月の米国新車販売が政府の助成が打ち切られたこともあり、前年比26%減と大きく落ち込んだと報じられた。消費刺激策という助成抜きでは惨憺たる情況であることが分かる。少し前に日本の場合のエコカー助成も需要の先食いであり、どこまで販売できるかと問題指摘をしたが、小売業的に言えば「バーゲンセール」「特売日」だからという理由と、HV車の燃費を中長期で考えたら「お得な買い物」だから売れているのである。しかし、誰もが感じているように、この時だけのバーゲンプライスはエブリデーロープライスへと向かっていく。LED電球においても東芝が発売した価格はシャープやパナソニック等が参入したこともあり、1万円を超えた価格はわずか半年で6000円台(実勢小売価格は勿論更に安いが)へと下がった。こうした量産できる家電製品や自動車は特にそうであるが、エブリデーロープライス心理は生活のあらゆる商品へと広がっている。

先日8月の完全失業率が5.5%と前月と比較し改善されたと報じられた。しかし、新規求人数は逆に前月比1.1%減少したとも。雇用環境は悪くなることはあっても良くなるとは誰も考えてはいない。この冬のボーナスは下がるどころか、正規社員ですらリストラの不安を抱えているのが現実だ。消費心理として、氷河期の入り口に来ていると私はブログに書いたが、恐らくブログを読んでこられた読者の多くはそんなことは分かり切ったことだと思っているであろう。産業構造を転換するには多くの時間を必要とし、それまでは耐え忍ぶしかないということだ。

「これから何で飯を食べていくのか」という転換すべきビジネスの困難さについて、一つの事例があるので書き得る範囲で紹介してみたい。鳥取県という日本で一番小さな人口60万人に満たない県であるが、その小さな県を象徴するように、大企業はほとんどなく中小零細企業、しかも農業、水産業で食べてきた県である。3年前、県の委員として産業の内容について多くの情報を受け取った。その中に、境港という全国で有数の水揚げを誇る漁港があり、本マグロの水揚げ量全国NO1であるという。当時、いやいまでもそうだが、高値で取引される魚である。地球温暖化で海水温が上がり、想定外の高価な本マグロが驚くほど捕れたと。しかし、その多くは20〜30kgの小型のマグロで青森大間のマグロのようには取引できないとも。漁の方法は巻き網漁で、船にも漁港にも大型の冷蔵&冷凍設備をもたないため、関西や下関方面へそのまま鮮魚として販売するしかない情況である。一定の品質を保持し、安定供給することが「産業化」への前提としてある。地球温暖化すらもチャンスにしようとしても、相手は自然であり安定供給するには冷蔵&冷凍設備は不可欠である。しかし、億単位の投資を必要とするため、中小零細企業ではほとんど不可能な資金である。また、500億円ほどの税収の鳥取県では行政が支援するにも限度がある。農水産業という一次産業をベースにおいた二次産業化、三次産業化へと転換していくにはかなりの時間を必要とするということだ。
更に付け加えると、瀬戸内海では春の代名詞となっている鰆(サワラ)が山陰沖や岩手の三陸沖で秋から春にかけて大量に捕れている。海水温上昇に依る海流の変化だといわれているが、農業の分野でも米作地域が北上していることは周知のことと思う。更には、農業法人の改革も進んでいく。地球温暖化を是とすることではないが、つまり製造業だけでなく第一次産業の生産地図が大きく変化し、この変化の時をチャンスに変えようと地方は頑張っている。

話を元に戻すが、減税やエコポイントといった助成措置、しかもLED電球がそうであるように長期間使え耐久性があり結果お得であるような商品の売れ行きを見ていくと、どうやら消費氷河期の準備に入ってきたという感がする。冬眠のためのストック消費、備蓄消費ということである。また、数年前からの傾向である内側への消費、「家庭内での遊び」、ドラクエ9といったゲームから親子が一緒に作り楽しむ調理器具といった商品、あるいは薄型TVも売れるであろう。ただ、そうした消費の根底にある価値観の変化であるが、「便利さ」に慣れ過ぎてしまったという消費への内省、逆に不幸すら感じている人も出てきている。その価値観が「不便さ」や「我慢すること」を楽しむ、幸福とする価値観へと変化していくのではないかと仮説している。身の丈消費という言い方があるが、身の丈生活を楽しむ、小さな幸福観に向かうのではないか。草食系世代、under29の若い世代の「買わない消費」は、こうした価値観の未来の芽としてあったのではないかと思っている。但し、私が「20歳の老人」と名付けたように情報的老人としての意味である。

寒い冬に向かい暖かさが求められている時代だ。バラバラとなった個人化社会にあって、家族や職場、多くのクラブなど社会の単位でのつなぎ直しがはかられてきた。そのつなぎ直しには象徴的な人物像が必要となっている。生活においては「平成のがばいばあちゃん」であり、経済では「平成の澁澤栄一」、政治では「平成の坂本龍馬」といったところであろうか。勿論、希望は与えられるものではなく、自ら灯すものである。自明灯(じみょうとう)ではないが、氷河期であればこそそんな小さな灯りに力づけられるものだ。そうした中、新たな歌が生まれるかもしれない。それが歌謡曲であっても、Jpopであってもかまわない。痩せていってしまった歌が、再び生まれ変わって登場して欲しい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:44Comments(0)新市場創造