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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年03月08日

顧客が求めるものーFOODEXJAPAN2009を見て

ヒット商品応援団日記No347(毎週2回更新)  2009.3.8.

先日十数年ぶりに国際食品・飲料展(FOODEXJAPAN2009)を幕張メッセまで見に行った。周知のように食品や飲料のバイヤーに向けた展示会であるが、昔見に行った当時の規模と比較すると大きくなり時代は変わったなと思った。日本をはじめ世界59の国と地域から2,393社が出展したとのことだが、その規模の割には「次」の食の在り方が鮮明になってはいなかった。

中国冷凍餃子事件や産地偽装といった生活者の食の不安に対し、自然、エコロジー、有機、環境に優しい・・・・一般論としての今や常識・標準となったことしか提案されていない。外食チェーンや大規模飲食のバイヤーを主対象とした展示会であることから、安心・安全、あるいはその管理といったシステムあるいは技術については個別問題として表には出せないことなのかもしれないが、FOODEXJAPAN自体もその取り組みが見えない展示会との印象を持った。心理化する市場は、その心理が過敏な神経症の様相を見せ始めている時である。商品展示も良いが、その商品がどのように生産、製造されたものであるのか、その過程を安心・安全というオネスト(正直)コンセプトの眼で展示してもらいたかった。

十数年前と較べて変わったなという印象を強く持ったのが、地方の商品展示ゾーンの活況さである。地方がおもしろいというのが私の持論であるが、多くのバイヤーがこのゾーンに詰めかけていた。出展者の多くは地方自治体の外郭団体主催のもとでの出店が多かったが、以前から注目してきた平田牧場も出店していた。平田牧場は山形県酒田の養豚事業者であるが、その直営飲食店として東京初出店がコレド日本橋であった。価格は少々高いが昼のランチ時間にはいつも行列ができる隠れた話題店である。食のSPAのような業態で、自分たちが生産した豚肉を美味しく食べてもらうために、豚かつは敢えて塩で食べてもらうことを勧めていた。豚かつ以外のメニュー全てが素材重視の生産者ならではのものとなっている。こうした生産者自らがメニューを作り、直接消費者に向き合う食のSPAといった試みは平田牧場以外にもかなり多く見られるようになった。私が以前取材した福岡県岡垣町の「野の葡萄」もそうであるが、安心・安全を含め、いわゆる生産者ならではの「訳あり消費」の先駆者の一人であろう。この延長線上に、今注目されている農家レストランなどがある。

今、流通の在り方が再度変わろうとしている。1990年代半ば「中抜き」(問屋といった仲介事業者を抜いた流通という意味)というキーワードと共に、今で言うところのPB(プライベートブランド)やSPA(製造小売業)が日本にも本格的に導入された。これを第一次段階とすると、今第二次段階へと進んできたように思える。それは2000年初頭からのインターネットの急速な普及である。いわゆるネット通販であるが、生産者も製造事業者も流通も、ネットメディアを介して直接顧客に向き合うことが可能となったことによる。もう一つが従来の食品や日用品はスーパーで買い求める在り方が根底から崩れたことによる。周知のように100円ショップでは生鮮品さえ販売されている。低価格という顧客価値観を軸に異なる業種・業態の参入が激しい。昨年夏オープンしたセブン&アイグループのディスカウントスーパー業態「ザ・プライス」を導入する必要性に迫られたのはこうした背景からである。そして、この「ザ・プライス」は2009年予定されていた計画の倍の20店を出店するという。

今、従来には無かったような分野・領域にまでこうした変化の波が押し寄せている。最近では大手流通のイオン(ジャスコ)は島根の漁協と組んで直接魚を仕入れ近畿圏で販売するようになった。一方、中抜きされた問屋は異業種企業を組み合わせた新しいメニューづくりをプロデュースするような動きも見られる。こうした激変する時代にあって、顧客の眼は生活不況から内側へ内側へ、価格が一番という物差しへと向かっていく。こうした消費傾向が1年近く続いている訳であるが、低迷する外食チェーンにあって勿論元気な企業も多い。例えば、餃子の王将では手作りにこだわり、店長にメニューづくりなどの権限を移譲した現場経営に徹し、成長を続けている。私も知っている若い経営者であるが、鳥取の居酒屋チェーンはメニューを絞り込み、結果オペレーションの手間が省かれ、しかも鳥取で半加工し東京に送ることで大幅な経費を削減し、低価格で提供している。若者向きの業態であるが、いつ行っても満席状態である。

顧客は誰であるか、その顧客は何を求めているか、そのためには何をすれば良いのか、ビジネスの原則に立ち戻ることだ。結果、どんな業態が求められているのか再編の入り口にいる。残念ながら不況はその震度を更に高めていく。私はブログにも書いてきたが、顧客は昨年春頃から大きく変わり始めた。顧客の価値観が変われば、私たちも変わりなさいということである。よくパラダイムチェンジというが、モノづくりも、その流通も、根底から変わることを要請される時代となった。どんな顧客主義を採るのか、そんな競争の直中にいる。つまり、生産であれ、流通であれ、自在に動くことが必要だ。地方の山間の多くは限界集落化し、そのほとんどがお年寄りである。しかし、そんなお年寄りに牛乳1本から配達する代行サービスが喜ばれている。勿論、ビジネスとして30%の手数料をいただく購入代行&宅配サービスである。決して顧客がいない訳ではない。目の前にいる顧客によって、再編が進んでいくということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:53Comments(0)新市場創造