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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2006年09月17日

「普通」回帰への視座 

 ヒット商品応援団日記No99(毎週2回更新)  2006.9,17,

数ヶ月前、過剰物語、サプライズといったコミュニケーション手法は終わったと指摘した。つまり、こうしたコミュニケーションは一つの方法であり、いわゆる過剰消費時代を終えたということである。「ハレ」と「ケ」という言い方をすると、ハレからケへと重点が移ってきたということである。非日常から日常への変化である。別なことばでいうと量から質への変化、基本回帰という言い方もできる。そうした潮流を「普通回帰」と呼んでみた。こうした概念をもっと身じかな生活実感としていうと、ごちそうばかりの日々から、干物に白いごはん、みそ汁、漬けもの、みたいな食事への志向とか、これでもかと笑いをとる芸人から、マギーシローさんの芸のようにくすっと笑える芸への志向変化である。サービスなども、送り迎えから始まりいたれりつくせりのサービスよりも、ポイントだけは気遣ってくれて、あとはほっておいてくれるサービスなんかも当てはまるかもしれない。そこそこ、ほどほど、といった表現がふさわしい時代である。こうした傾向は団塊世代が市場をリードしていく傾向とパラレルなものと思う。

私のPCはMacなので、音楽もiPodで楽しんでいるが、映画の配信も米国では始まった。日本でも始まると思うが、PCを前に何時間も見続けるといったことにはならないと思っている。そして、映画の上映時間や内容が、どんどんTV番組のように短く、誰でもが分かりやすい創られ方へと変化していくかもしれない。しかし、映画を復活させた一要因である「シネコン」のように、2時間位真っ暗な中で鑑賞するといった、いわば映画の原点に戻るような気がしている。こうした映画配信のようにIT技術によって、何もかもが「便利」になった。この便利さの象徴にはPCがあると思うが、同じようにこれでいいのかなという感じを受けている。10年ほど前、インターネットの世界を「なんでもドアー」と言っていたが、まさにそんな便利な世界が現実となっている。欲しい情報は最新のものが瞬時に手に入るし、自分と異なる考えを参考としたいと思えば同様に手に入り、「知らない」とブログに書けば、瞬時に分かった人からコメントが寄せられる。まるで、料理が何一つできない人間が、材料からレシピーまで用意してくれて、いとも簡単に料理ができてしまう。そのように、自分が作った料理だと錯覚させてしまう時代にいると思っている。逆に、「不便さ」を自覚的に必要とする時代を迎えていると思う。つまり、「不便さ」を楽しんだり、わざわざ五感で感じ取ることに身を置いたりすることが必要な時代となっている。

少しづつではあるが、タイトルにあるように不便さのある「普通」に戻る方向に消費は進んでいると考えている。この普通というのは単純に「元」に戻ることではない。過剰という体験・経験を踏まえた普通である。目が肥え、体験を積んでいるから、普通への「戻り方」にも一工夫、アイディアが必要だということである。例えば、このブログでも取り上げた「えんぴつで奥の細道」のヒットは、PCで書くことを忘れてしまったことに対し、楷書や行書の教本でトレーニングするのではなく、慣れ親しんだ「奥の細道」という名文を教本にしたところにアイディアがあった。結果、道草をするおもしろさに気づかせてくれた訳である。食に関していうならば、「干物に白いごはん」と書いたが、ごはんは土鍋や釜で炊き、天日干しした干物といったこだわりの食となる。外食が廃れるということではなく、「内食」ならではの良さを取り入れた外食が流行ると思う。あるいは、「おふくろの味」ではないが、内食という固有の楽しさを味わう「中食」や「外食」ということになる。「普通」への戻り方、一工夫、小さなアイディアがヒットを生む。

何年か前に、幕内秀夫さん(管理栄養士・フーズ&ヘルス研究所代表)が「粗食」を提案され話題になったことがあった。しかし、当時は健康というより、ダイエットの方に欲求が強かったため、幕内さんは粗食を素食(そしょく)、シンプル&ナチュラルというように言い換えられた。私ならば、素食(もとしょく)と呼んで、「普通」回帰、以前の普通とはひと味もふた味も違う「普通」を提案すれば良かったのではと思っている。私がイメージする素食(もとしょく)は、「ホテイチ」の人気メニューである「豆サラダ」のようなもので、日本古来から常食としてきた雑穀や豆類、海藻や魚介類を素材としたメニューで、低カロリーであり、必要とする栄養素は十分あり、しかもカラフルで食欲をそそるシズル感のあるメニューである。LOHASは「ソトコト」の今月号でも食をテーマに取り上げているが、食にアートの世界を取り入れた貢献は認めるものの、その基本である「食育」をテーマに掲げるだけで具体的活動はほとんどしてはいない。食育とは日常食をベースとし、特に家族における食のあり方を追求することが最大課題となっている。エルブジ風の料理を見せられても、「普通」の生活にはなりえない。求められているのは、新しい考え方に基づいた、次なる「普通」の生活のデザインである。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:57Comments(0)新市場創造